家の近くの一軒家に、「かわいいあいつ」と密かに呼ぶ小型犬がいる。
通りに面したその家の窓は、いつもカーテンで閉じられているが、
彼(勝手に決めた)は、カーテンの隙間から外を覗くのがお気に入り。
出勤時に必ずそこを通る私は、
「おはよー」とか
「元気ー?」とか
笑顔で話しかけ、手を振ってみる。
彼、まったくこちらを見ない。
「僕、全然興味ないもんねー」
といった風情で、別の方向をひたすら凝視している。
「やなかんじ・・」
最初は思った。
しかし、よく観察してみると、目の端でこちらを見ているではないか。
ちらっちらっと。
見ないふりをしながら。
でも確実に。
その、“こっそり”といった風情に、すっかり心を掴まれてしまった。
その日以来、愛しさを込めて「かわいいあいつ♡」と呼んでいる。
姿はなくとも、
カーテンが彼の形に少しだけめくれていて、
窓は鼻息らしきもので、しっとりと濡れているのを見ると、
「あー、今日もがんばっていたんだな。」
と思う。
しばらく彼の姿もカーテンのめくれもない日が続いた。
「夏バテかなぁ・・」
心配になる。
窓の前を通り過ぎながら
「ウォン」
と小さくつぶやいてみた。
すると!
「ウォウォウォ〜〜ン!!」
家の奥から声がした。
あっという間に窓まで駆け昇り、カーテンをシュッと鼻で開け、
いきいきと彼が登場したのだ。
私はこの交流にすっかりうれしくなった。
またも別の夜、・・夜なのでさらに小声で
「ワフ」
とだけささやいてみた。
奥からすぐに彼の声。
「ワフ!ワフフーーン!!」
しかしその次の瞬間。
あちらこちらの家から犬の遠吠えが!
「キャワーン!」「バウ!」「アオーーーン!」「ギャンギャン!」
「こ・・こんなにいたの?」
夜も更けており、さすがに冷や汗であった。
それ以来話しかけるのを自粛している。
最近の調査でわかったが、彼は「ジャックラッセル」という犬種のようだ。
相方は、ついに外でラッセル君(改名)に遭遇したらしい。
飼い主さんの腕にぶらさがりながら、こちらをこっそり見ていたという。